会社代表や社長の立場にある方。日々「会社売りませんかDM」が大量に届いているのではないでしょうか。
いったい何故か?DMの裏にある業者の顔は?あるいは業者選びの仕方が分からない、といった疑問もあるかもしれません。
今回は、私自身も過去にM&A・事業承継アドバイザリーの最前線に携わっていましたので、この経験を踏まえてこれらの問いに対する一つの見解を書いてみようと思います。
◇目次
大量にDMや営業電話の背景に、国内M&Aの急増+仲介業市場の拡大
結論的に背景を述べます。
- 国内M&A(会社の売却・買収)の件数が急増している
- M&Aアドバイザリーは、報酬相場が高額(だった)なので儲かる仕事とされている
- 採算が良い仕事なので、周辺業者がM&Aアドバイザリーの仕事に群がる→顧客獲得競争→DMが増える
というのが2022年現在の状況と言えます。具体的なデータを見ながら詳しく解説していきます。
国内M&A件数は特に2017年以降急増。中小企業層でもM&Aが一般化
下記データの通り、国内M&A(買収・合併)件数はここ数年急増しています。
業者増による営業活動の活発化、経営層の高齢化による事業承継ニーズの増加など、様々な要因はあろうかと思いますが、既に中小企業間でもM&Aは一般化したといえる状況にあります。
コロナ禍の影響が出た2020年は多少減っていますが、会社が存続する以上は売却や承継のニーズは必ず生まれますので、今後も一定の市場規模を維持することと予測されます。
市場目当てにM&A業者の営業活動が活発化。そしてM&A報酬相場はとにかく高額。
上記要因の一つに挙げたM&A業者増加ですが、その要因の一つとして、歴戦のM&Aアドバイザー界隈が築き上げてきた高額な成功報酬相場があります。
業者が仲介してM&A案件を成立させた成功報酬は、譲渡価額の概ね3%前後がスタンダードな水準です。(細かい報酬体系の解説は省きます)
中堅企業でも売上高が50億円にもなれば、株式譲渡価額は総額20~30億円に上ることもありますので、その一件だけで1~2億円(20億円×3%×2=1.2億円の報酬。×2は売り手・買い手の両方から3%取るため。)というサラリーマンの生涯年収ほどの報酬が一件の成約で入ってしまうわけです。
この高報酬は、案件が途中で頓挫するケースが非常に多く業者側の台所事情的に安くできないという事情はあります。
また、例えば日本M&Aセンターという当業界のリーディングカンパニーの平均年収はトヨタなどを凌ぎ日本一ですので、相場構築や高度な専門性も含めた結果の現状というところでしょう。
大量新規参入が引き起こした苛烈な値下げ競争と営業攻勢、品質低下
M&A業者数も右肩上がりで増加しています。採算が良く市場も拡大しているので、新規流入は自然な流れといえますが、そうなると当然値下げ・営業競争が始まります。
特に新規参入したてで既存の人脈ネットワークがない会社は、レートダウンや完全成功報酬などで価格面での差別化は必至です。
そして値下げ競争が始まると、専門知識に乏しくまともにサービスを提供できない低品質な業者も発生するでしょうし、粗悪なDMを大量生産してしまう遠因にもなっていることでしょう。
DMの中身も営業優先の内容ですので、話半分で見ておくことがお勧めです。(本当に慎重な話であれば、DMという手段はとらず信頼できるルートでのアプローチがあるはずです。)
「コンサルティング」から「仲介」へ。似て非なるものへの変貌が進む。
本来、M&Aアドバイザリー業は営業パワーだけで務まる仕事ではありません。多額の資金が動く重要な取引を扱う上で、税務・法務等の様々なテクニカルな問題への対応、成約後の取引当事者の成功施策など、様々な考慮が必要な高度なコンサルティング業務です。
他方、人的要素が強い仕事でもあり、取引成立さえさせれば多額の手数料が入るため、細かいアドバイザリーを放棄した「仲介」業への足下での必然的な移行、営業ゴリ押し主義な考えの会社も増加しているというのも実感としてあります。
利益相反の元となる「仲介」形式は今でも多い
M&A業界には「仲介」という双方から成功報酬を徴収する契約形態が古くから存在しており、利益相反に関する根深い議論があります。(ちなみに不動産業界でも全く同じ議論があります)
業者としては、成功報酬アップのためには譲渡価格が高い方がありがたいので、買い手に対してはフィーを請求しながら価格を吊り上げるほうが得です。このように、契約時点で既に利益相反しているという考え方ができます。
また、売り手とは価格面で利害一致しますが、そのアドバイザーが買い手も雇い主にしている以上、相手方に有利になるアドバイスをする義務を負っているという、かなり微妙な関係性といえます。
アメリカやシンガポールなどでは、小規模取引などの例外を除きこの仲介形式は禁じれらています。日本においてはこのあたりの利益相反周りの法整備が進んでいないため、業者は積極的に仲介契約を取りに来ます。取引者は自分自身で警戒し身を守る必要があります。
M&A稼業戦国時代。高品質なM&Aアドバイザリーとは何か?を考える
この様に業者が玉石混合する時代において、高品質なM&Aアドバイザリーサービスとは何か?その中で、M&Aアドバイザリーサービスを提供する当社がとるべきスタンスは?と、考えてみます。
アドバイザーの利益を優先しすぎない
M&Aは当事者の社史に残る一大事ですが、ともすればアドバイザーの報酬が最大化するように取引全体がコントロールされがちです。
特に、双方にとって将来不利益になるM&Aでも、アドバイザーとしては成立したほうが成功報酬が入るのでおいしいという、当事者との利益相反の構図は避けられないのです。
とにかく目先の利益のためにゴリ押しするだけの業者はNGです。長期的な信頼関係を第一に仕事をすることが、アドバイザーとしての私共の矜持だと考えています。
利益相反の元となる契約は避ける
上述のように、仲介契約は利益相反となる可能性が高いため、可能な限り避けています。
例外となるのは、取引の相手側からのサポートを強く要請される場合や、小規模取引のため相手方に別の専門家を起用する経済的合理性が認められない場合です。
その他のケースでは、買い手・売り手いずれかのアドバイザーとしてM&A業務に従事しています。
適切な人脈関係を持っている
M&Aは人的繋がりが大切です。それは良い買い手・売り手の結び付けももちろんですし、信頼できる財務・法務・税務の専門家の起用ができることも重要です。
歴史があり取引履歴も多い会社が強みとしている部分ですので、やはり大手業者(上場している会社も何社かあります)を選ぶ一定のメリットは存在しているでしょう。
取引当事者間の丁寧な理解・信頼醸成を行う
会社売買取引は、用語・常識など独特な文化を形成しています。特にM&Aが初めてという会社では、未知のワードなどで右往左往すると思います。
そんな中でアドバイザーは道しるべとなり専門知識に基づいてクライアントの利益最大化に導くのが使命といえます。
私自身もM&A初心者の会社様とは色々な案件を経験してきましたが、その都度一つずつ丁寧に説明を重ねています。そのような積み重ねにより、クライアントにとって満足のいく取引・判断ができることが最も重要な職責であると考えています。
結び:M&Aは会社にとって一大事。業者選定は慎重に。
結局のところ、仕事をさせてみないと業者の良し悪しはわからないので、価格・ネームバリュー・人脈など、何か光るものがあれば任せてみるのがいいでしょうし、不安なら契約解除すればよいでしょう。
M&Aは会社とそのステークホルダーにとって一大事です。遠慮せず、疑問や不安、主張を行っていくべきです。
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特に丁寧な取引を行いたい会社様、M&Aは初めてだけど取引を何とか成立させたい会社様などには、ご好評いただいております。また、このブログを見ていただければわかる通りIT企業の業務・特性に関しては理解が深く得意としております。
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