こんにちは、堺です。
企業が長期的に成長を続ける上で、経営判断のツールとしての管理会計をしっかりと組み立てる重要性は高いです。
その管理会計の基本要素の一つ、費用を固定費・変動費に分解する損益計算書の組み替え作業は、あらゆる業種において重要となります。
今回は、その基本となる「固定費・変動費の分け方」の方法について、分ける目的から逆算する戦略的視点で紹介していきます。
◇目次
固定費・変動費の区分は、「費用発生が売上に直接的に連動するか否か」
固定費・変動費は、字づらではピンときにくいですが、売上に連動するか否かという観点で分類されます。
- 固定費:売上に直接的に連動しない費用。例:人件費、減価償却費、地代家賃、広告宣伝費、リース料、役員報酬、福利厚生費、法定福利費、水道光熱費、等。
- 変動費:売上に直接的に連動する費用。例:商品仕入、材料費、外注費、製品配送費等。
※例に挙げた科目は、ほとんどの会社でそれぞれ固定費・変動費に当てはまりますが、実際にどの科目が固定費か変動費かは会社(ビジネス)によって異なります。次のセクションをご参考ください。
固変区分は画一的には決められない。それぞれの会社のビジネス様態から個別に検討する必要がある。
上記に一応例は示したものの、固変区分は勘定科目名などによる画一的分類はできません。各社個別に検討する必要があります。
それは例えば、「配送費」などは典型的で、多くの企業では販売に関係のない郵送料に過ぎず固定費と区分するべきです。他方、ECサイト等の業態では、商品を配送する費用が直接売上に連動する(売上が増えれば送る商品が増えるので配送費が増える)ことが予測される為、変動費と区分するべきです。
あるいは典型的な固定費として人件費が挙げられますが、例えば期間工などの賃金は操業度によって支払額が変化するので、変動費といえるでしょう。
この様に固定費・変動費の分類はビジネス様態ごとに名前も種類も異なっているため、各社個別に検討する必要があります。そのため、本記事のような「固定費・変動費の分け方」といった論点が生じます。
次のセクションから、具体的な分類方法の指針に関して検討していきます。
固定費・変動費を分ける作業をする前に、目的を確認。損益計算書では読み取れない重要指標を抽出する。
分類作業を始める前に、その目的を整理します。つまり何のために費用を固定費・変動費に分けるのか、分けた先にあるメリットを確認します。
ここでは大まかに2点挙げます。
目的①:限界利益(=売上高-変動費)を把握する。限界利益は、事業への投資=固定費の投入可能額を決める重要指標。
限界利益は、損益計算書には表示されない利益ですが、極めて重要な指標です。
事業の収益維持向上のためには、適切な設備投資、人材や広告費の投入が不可欠ですが、これが多すぎれば不採算で赤字ですし少なすぎれば機会損失に繋がります。したがって、こういった投資は、最終的に手残りが出るよう、売上からそれに連動する費用(変動費)を差っ引いた残額=限界利益を上限に投入していく必要があるのです。
このように、事業を適切に成長させるための投資を適切に実行できるかどうかは、その指標の把握、限界利益の把握に掛かっていると言えます。
尚、先行投資として限界利益以上に固定費を投下する場合も事業によっては十分あり得ます。その場合であっても最終的には将来の限界利益の範疇で回収されるべきです。その将来の読みをロジカルに行う意味で、次のメリットにつながっていきます。
目的②:予算編成、中期計画を作成する際、売上が増減した時の費用発生額の現実的な予測指標となる
企業活動において将来数値を計画することは様々な場面で求められます。
上場企業であれば投資家に対して中期経営計画を提示しますし、銀行向けの事業計画や、上述のような投資計画の回収試算など、企業活動と計画策定とは切っても切れない関係にあると言えます。
そうした中、売上に対する費用を予測するときに役立つのが固定費・変動費の区分です。この分けは費用の発生メカニズムに着目した区分ですので、変動費は売上に対してXX%発生すると予測できますし、固定費はリソース投下具合によってコントロールされます。
このように、将来計画を作成する際の強力なツールになりますし、ひいては前述のような適切な額の投資遂行や資金調達の成功、企業成長につながるという訳になります。
(ちなみに)固変分解の詳細な目的やメリットについては、関連記事をご参照ください。
直接原価計算(変動費のみを製造原価とする考え方)について記事を作成していますが、固変分解の重要性は非製造業でも同等です。是非あわせてご参考ください。
固定費・変動費の区分方法の実務
ここからは、実際に固定費・変動費の区分方法を説明します。
基本的な考え方:「売上に直接的に連動するか否か(連動=変動費)」
売上を立てるための材料や商品仕入、輸送費、燃料など、売上に直接的に連動すれば変動費。そうでなければ固定費です。
この「直接的に」という部分がポイントです。詳しくは後述しますが、どっちつかずなものや間接的なものであれば固定費と配分して支障ありません。(経営者の裁量によるコントロール余地がある為。逆に仕入値などは取引先の交渉状況に依存し、自社判断だけで動かすことが出来ません。)
こういったことから、変動費は会社全体の費目の中では自ずと少数派となります。ビジネスによっては全額が固定費である場合もあります。
よって実務的な分類作業では、「変動費に当たるものはどれか?」の観点で見ていき、当てはまらなかった残りは固定費という判断を行っていくことが効率的です。
もしざっくり分けるなら、商品仕入(期首期末調整を含む)、材料費、外注加工費だけを変動費に。残りは固定費。
もし時間がなくてものすごくざっくり分けるとすれば、商品仕入(期首期末調整を含む)、材料費、外注加工費だけを変動費に区分して残りは全て固定費と区分しても、多くの会社ではこれらのウェートが高いため大きな間違いは起きないと思います。
ただ、それではざっくり過ぎますし、ビジネス内容によってはこれら勘定科目が固定費的性質を持つ場合もありえます。
ですので、個別・費用内訳ごとに見ていきましょう。
典型的な変動費を列挙
上記のように、変動費は会社全体の費目の中では少数派です。
具体的にピックアップしていけば、残りは固定費と判断できます。この観点で、変動費を例示してみます。
- 商品仕入高、材料仕入高、副材費(諸掛含む)
- 商品発送のための燃料費、配送委託費
- 製品製造のための外注加工費、案件遂行のための外注費
- 売上高に連動する契約の支払ロイヤリティ
個別に分け始めると、売上に若干連動する「どっちつかず」が出てくる。売上への連動が直接的でなければ、基本的に固定費に区分。
実際に分類作業を進めていくと、固定費・変動費の中間的な性質を持つ費用が見つかります。(こういったものは準固定費などと呼ぶこともあります。)
典型的なものでいえば事務所賃料などで、売上が上がれば当然人も増えてより広い事務所が必要になりますので、賃料も間接的には売上に連動していると言えます。
ただ上述の通り、有意な固変分解を行うための基本的な方向性としては、変動費とする基準は厳しめにすることをオススメしています。
売上を立てるための材料や商品仕入、輸送費、燃料など、正に直接的なものではなければ固定費と判断して差し支えありません。そういった準固定費的な費用は、経営者の裁量によるコントロール余地がある為です。逆に仕入値などは取引先の交渉状況に依存し、自社判断だけで動かすことが出来ません。
ここで例に取り上げた事務所賃料も、そういった理屈で多くの場合は固定費と配分して問題ありません。
どれが変動費か把握できたら、勘定科目レベルで固定費/変動費と決めて、計上先を変更することをオススメしたい
この方法は財務会計に直接手を加えるため、銀行や株主などステークホルダーへの説明は変更です。ただ、会社の規模やステージによって可能であれば、効果の高い施策です。
実践方法はタイトルを読んでの通りでありますが、詳細は↓の関連記事に詳しく記載してあります。よろしければご参考ください。
この方法により決算書を作成すれば、損益計算書のページを開き電卓を叩くだけで限界利益を把握することが可能となります。
逆に一つの科目に固定費と変動費が混ざっていると、計算は大変です。仕訳帳を分析するか、回帰分析などに頼ることになります。
(ちなみに)当社は管理会計に強みを持つコンサルタントです。ぜひご相談/ご依頼ください。
当社では、大小様々な会社様に対して管理会計のコンサルティングを実施しております。
- 必要指標の整理と、エクセルベースでの管理会計資料の整備(製造業様)
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管理会計は、企業業績の維持・成長に不可欠な業務です。ご相談やご不安、ご不明点などあれば、↓のボタンから是非お問い合わせ頂ければ幸いです。
お目通しいただきありがとうございました。