損益計算書の段階利益(営業利益・EBITDAなど)それぞれの定義と、指標としてどれをどんな場面で重視するのか、そしてその理由を解説します。
計画策定や分析などの場面で、「EBITDAが大切」とか「経常利益の推移は?」とか指摘されることもあるかと思います。
そういった指摘の裏側にある相手方の意図などがわかると思います。
◇目次
損益計算書の段階利益の図解と構成要素の個別解説
売上高(Net Sales)
利益の源泉たる売上高です。
英語でNet Sales(正味売上高)という通り、売上値引割戻や一部の引当金などを控除した金額を使用することが通常です。
売上原価(COGS/Cost of Goods Sold)
商品の仕入や製品製造にかかる原価がここに含まれます。
粗利を計算するうえでの売上から控除する費用、あるいは直接費用と考えれば理解しやすいかと思います。
売上総利益/粗利益(Gross Profit)
売上高から売上原価(仕入高など)を控除した利益です。古来から「粗利」と呼ばれてきているものです。
売価決定が適切か否かを見るには粗利益が良い指標となります。但し、製造経費など固定費が混ざっている場合、その扱いには要注意です。
詳しくは過去記事をご参照ください。端的に述べると、値決めはあくまで売価と変動費(直接原価)のバランスによって決定するべきです。原価に固定費が関与する場合、粗利益は疑似的指標に過ぎないということになります。
販管費/販売費および一般管理費(SGA:Selling, General and Administrative Expenses)
売上原価以外の諸費用がここに含まれます。
本業における事務・管理等にかかる費用と捉えていただければOKかと思います。
減価償却費(Depreciation/Amortization)
固定資産の取得価格を、2年以上の期間にわたって徐々に計上していく費用です。
資産価値が時間経過とともに価値が減っていく事象を反映させ、あるいは長期使用するため適切に収益費用耐用させるための計算方式です。
業績評価の観点では、キャッシュ・フローと損益計算書上の利益が乖離する主要因となるため、その他費用とは分離して考えるのが一般的です。
尚、英名のDepreciation/Amortizationは、前者は有形資産、後者は無形資産(ソフトウェアなど)に用いられます。
EBITDA(Earnings Before Interest Taxes Depreciation and Amortization)
売上総利益から減価償却費以外の費用を控除した利益です。
正式名を直訳すると「利払前・税引前・減価償却前利益」なので計算方向が違いますが、同じ意味合いと理解して問題ありません。
上記の通り減価償却費はキャッシュ・フローと費用計上が乖離するため、その影響を排除し本業での各期のキャッシュ・フローを疑似的に把握することができる指標です。
こういった事情から、業績評価の観点では極めて重要な利益とされています。
また、クロスボーダーで考えた時に各国制度の影響を受けやすい減価償却費・法人税等に左右されないこともEBITDAが積極的に用いられる理由にもなっています。
ここでの注意事項として、如何な事業でもEBITDAで評価すればOKかといえばそうではなく、例えばCAPEX(資本的設備投資)が多い事業に関してはEBITDAでの業績評価では判断を誤る可能性があるといった点です。
詳しくは後程解説します。
営業利益(Operating Income)
本業でのもうけを表す利益です。
また、正確には異なりますがEBIT(Earnings Before Interest and Taxes、利払前税引前利益)と近しい利益と捉えることもできます。
先ほどから何度か説明している通り、減価償却費を主要因としてキャッシュ・フローとは一致しないことが多いため、業績評価指標としてはEBITDAの方が優れているケースが多いと言えます。
当期純利益
営業利益から支払利息、法人税等、雑収入や特別損益等を加減算して算定されます。
最終的に会社(事業)としていくら儲かったのかを示す指標です。
特別損益が関与するため業績評価に使用するには適していません。
利息の影響も加味したキャッシュ・フローを評価する必要がある場合は、日本の会計基準でいう経常利益に減価償却費を足し戻した金額を使うこともあります。
事業計画や業績の評価でEBITDAが大切といわれる理由は?
資金調達の際の事業契約書やM&Aなどにおける業績評価では、EBITDAが使用されることが多数です。
それはなぜか?を考えてみます。
本業による事業キャッシュ・フローを疑似的に表している
上記の通り、減価償却費を考慮していないため、設備投資を除き本業が実質的に得ているキャッシュ・フローに近しい数値になります。
また、決算書を眺めるだけで素早く算定できますので、事業の実力をクイックに評価するという観点で非常に便利という側面もあります。
ここで除外されている設備投資高については、EBITDAから毎年の投資額を控除して考えるのか、短期的に見て無視してよいのか(特に製造業など維持更新投資が当面見込まれない場合など)、あるいは負債として評価するのか。その事業の性質により判断する必要があります。
ともあれ、事業評価に関して非常に重要な指標であることに関しては間違いありません。
事業計画や業績を評価する相手は、利息を考慮する必要がない人であることが多い
これは諸意見あるかと思いますが、外部者が事業計画や業績を評価する時、その外部者は多くの場合、債権者か投資家です。
すなわち相手方がファンドであり、エンジェル投資家であり、M&Aの相手方当事者であり、銀行であるという面々が想定されます。
特に投資家であれば、利息費用はレバレッジの一部と考えるか、潤沢なキャッシュを背景にコントロール可能、あるいは投資後は本社マターとするケースが多いため、個別の会社に付属する支払利息を考慮しないほうが諸々整理しやすいケースが多いのです。
無論、例外はあります。例えば小口投資家であれば利払もきちんと考慮しなければ自己の取り分が残るか否かを評価できません。
いずれにせよ、評価者の立場から見ると、EBITDAで評価しておくのが都合が良いケースが多いという背景があるのです。
営業利益や経常利益が重視される場面とは?
とはいえ、EBITDAは会計基準に定められたものではなく、あくまで決算書を改造して得られる数値です。
特に銀行融資交渉の場面などでは、恣意的に計算されかねないEBITDAより決算書に明記されている営業利益・経常利益が重視されています。
キャッシュ・フローの実質性を求めるか、組織・業界としての規律を重視するかの観点でも、着目する段階利益が変化するということが見て取れます。
結び:見る人の都合の良い見方をすればOK。ただ、最大公約数であり共通言語したのがEBITDAだったということ。
結局のところ評価者が都合の良い指標を使えばOKなのですが、共通言語化しているEBITDAを使えば便利だという面は多分にあります。
事業計画の策定などの場面では、EBITDAをきちんと示しておけば色々な人の目を通すとしても一定程度戦える内容となることでしょう。
ご健闘を祈っております。今回も有難うございました。
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