【管理会計まとめ】
管理会計とは何か?から必要性、活用方法まで実務家が解説


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「管理会計」は、会計基準のように明文化された定義はありませんが、ビジネスの現場ではある程度「こういうもの」という共通認識は存在します。

この記事では、私の管理会計コンサルティングの前線での経験を踏まえて「管理会計とは何か?」から実務的な活用方法、必要性について論じます。

◇目次

  1. 管理会計とは、損益計算書とは別形式の収益利益の計算
  2. 財務会計(決算書)と管理会計の違い。大まかには、法定か任意(自社用)かの差。
  3. なぜ管理会計に取り組む必要があるのか。損益計算書だけでは把握できない経営状況を分析するため。
  4. 管理会計は効果的な意思決定には必須。疎かになると経営危機にもつながる。
  5. 管理会計の具体的手法①:費用の性質別分析(固定費・変動費等)
  6. 管理会計の具体的手法②:ビジネスセグメント(事業や部門など)ごとの採算性やKPI分析
  7. 当社の支援事例でも、会計ソフト設定×エクセル整備で、ノーコストかつ効果的な管理会計構築から始めることが多い
  8. ケースに学ぶ管理会計①:成長に合わせた帳簿作りが必要となったIT業A社
  9. ケースに学ぶ管理会計②:価格競争力低下と工場からの値上げ要請の板挟みになる製造業B社
  10. 参考書紹介:管理会計は実践学。ケースで学ぶ重要性は高い。
  11. (ちなみに)当社は管理会計に強みを持つコンサルタントです。ぜひご相談/ご依頼ください。

管理会計とは、損益計算書とは別形式の収益利益の計算

前述の通り、「管理会計」は、会計基準のように明文化された定義や基準は存在しません。解釈や内容は多岐にわたりますが、一般的には概ね次のようなものを指します。

表:管理会計とは?まとめ表
大まかな意味合い
  • 財務会計(損益計算書)とは別形式の収益利益計算の作業。
  • またその結果となるレポート等。
計算の目的
  • 「経営数値の見える化」
  • 財務会計(決算書)だけでは読み取れない自社の情報(例えば部門別損益や直接原価等)の分析。
計算内容の例
  • ビジネスセグメント(部門やグループなど)ごとの採算性やKPI分析
  • 固定費・変動費別の分析、限界利益・貢献利益計算
計算の結果得られるものの例
  • 部門別の採算把握
  • 各期の利益増減の要因
  • 予算編成や利益予測の精度向上
  • 適切な売価単価の把握
資料として使用される機会
  • 社内の経営会議
  • ステークホルダー(銀行、株主等)への業績説明
  • 上場企業であればIRのセグメント情報
実践の難しさと精度の重要性
  • 決まった形がなく、個別のビジネスに合わせ効果的に設計する専門性が必要。
  • 誤った管理会計は、意思決定を誤らせ、会社経営そのものが傾く可能性も。

財務会計(決算書)と管理会計の違い。大まかには、法定か任意(自社用)かの差。

財務会計と管理会計は、名称が似ており混同しがちですが、内容は大きく異なります。ここで整理しておきたいと思います。

尚、財務会計とはすなわち財務諸表(貸借対照表・損益計算書)及びその周辺情報を含む会計と理解して差し支えありません。

大まかに両社の違いを捉えると、財務会計は会社法や金商法で義務付けられる法定の会計であり、他方で管理会計は自社用に自由に作成されるものと説明可能です。

表:財務会計と管理会計の主要な差異
財務会計 管理会計
作成する義務
  • 作成義務有り(会社法、その他)
  • 作成は任意(必要に応じて)
作成する資料
  • 損益計算書、貸借対照表、付随資料
  • 会社法及び会計基準に準拠
  • 業績報告資料等
  • 内部用に自由形式で作成
作成する目的
  • ステークホルダーへの業績報告
  • 法定の財務状況、経営成績の開示
  • 税務申告
  • ステークホルダーへの業績報告
  • 意思決定のための自社経営分析
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なぜ管理会計に取り組む必要があるのか。損益計算書だけでは把握できない経営状況を分析するため。

売上と費用は、損益計算書を見れば把握可能ですが、何故わざわざ任意作成の管理会計に取り組む必要があるのでしょうか?

財務会計(損益計算書)は客観性と網羅性に重点が置かれており、経営分析用途には向いていません。特に事業組織が複雑化してくると、次のような疑問が出てきます。これらの疑問は、損益計算書だけではその答えが得られません。

事業組織が複雑化した時に出る疑問。損益計算書では把握できない。
  • 利益率が上がった(下がった)のはなぜか?何がよかった(悪かった)のか?
  • 事業Aと事業Bは、どちらがどれだけ儲かったのか?
  • 売上が〇〇万円増えたとき、どの費用がどのくらい増えるのか?

そこで、この疑問解決のために損益計算書を組み替え、もしくは別の指標を使って経営状況を分析する管理会計の工程が必要となります。

管理会計は効果的な意思決定には必須。疎かになると経営危機にもつながる。

管理会計への何らかの取り組みは、ある程度の規模(業種にもよりますが、概ね売上1億円以上)の会社であれば必ず行うべきです。事業規模が大きくなるほど、適切な知識に基づいて運用される必要があります。

逆に、管理会計を欠いたり間違えたままでは検討材料不足のまま勘まかせ、または間違った情報で意思決定している状態となってしまいます。

管理会計を欠いて、または間違っている場合に起こる問題
  • どの商流に注力するべきかわからないので勘で決める(間違える)
  • 製品の適切な売価がわからないので、値上げ値下げの判断を勘で決める(間違える)
  • 積極営業で売上が増えたのに、何故か利益減少が続き気付けば会社がピンチに
  • 人件費や広告費をかける金額を間違えて投資回収に失敗、融資返済が滞ってしまった など。

管理会計を作っていなかったり計算指針を間違えることは、判断ミスを積み上げ、最終的に致命的な水準まで至ってしまう可能性すら含んでいると考えています。

実際、企業再生コンサルタントをしていると、苦境を迎えている会社の多くは、管理会計に問題を抱えている事例が多いのです。

管理会計の具体的手法①:費用の性質別分析(固定費・変動費等)

管理会計の手法は目的にもよりますが、「費用の性質別分析(固定費・変動費等)」と「ビジネスセグメント(事業や部門など)ごとの採算性やKPI分析」を行うことが基本です。前者から順に解説します。

損益計算書上には、商品仕入、消耗品費、減価償却費等、様々な費用が計上されます。利益と費用の分析を適切に行うためには、費用の性質=発生メカニズムに着眼することが重要です。

費用の性質=発生メカニズムに着眼した管理会計的分類方法
  • 【固定費】
    売上に直接的に連動せず固定的に発生する費用。例:人件費、減価償却費、地代家賃、広告宣伝費、リース料、役員報酬、福利厚生費、法定福利費、水道光熱費、等。
  • 【変動費】
    売上に直接的に連動する費用。例:商品仕入、材料費、外注費、製品配送費等。

他方、財務会計(損益計算書)では、費用は大きく「販管費」と「製造原価」に分類されます。

この分類は、製品原価として在庫計上するものとそうでないものという意味合いはありますが、費用の発生メカニズムの観点では客観性の確保が難しいため考慮されていません。

表:財務会計と管理会計の費用の分類方法の違い
重視するもの 実際の区分方法
財務会計
(損益計算書)
客観性 原価か販管費か。
商品製造に係るか否か。
在庫計上するか否か。
管理会計 費用特性(発生メカニズム) 固定費か変動費か。
売上に直接連動するか否か。

費用を固定費、変動費と分類することは、過去損益実績の利益増減の要因を特定するとともに、将来の売上予算に対して費用がどのように推移するのかを予測するために重要です。損益計算書では対応しきれない管理会計分野の代表的な分析方法と言えます。

尚、大まかに固定費・変動費の分け方は「売上に直接連動するか否か」です。固定費と変動費の分け方の実践的方法(関連記事)もぜひご参照ください。

「直接原価計算」は固定費・変動費分析に着眼した損益計算方法

尚、固定費・変動費の分類に着目した管理会計手法は「直接原価計算」と呼ばれる場合があります。対となる概念に「全部原価計算」があり、後者は財務会計(損益計算書)で採用される考え方です。

直接原価計算は製造原価・販管費の枠を取り外し、あくまで固定費・変動費の分類で利益計算を行うものです。経営管理・意思決定用途に優れる=管理会計向きである一方、客観性確保が難しいという欠点を抱えています。詳しくは、全部原価計算の実務上の問題点と、直接原価計算が意思決定用途に優れている点(関連記事)もご参考ください。

管理会計の具体的手法②:ビジネスセグメント(事業や部門など)ごとの採算性やKPI分析

損益計算書は、基本的には会社全体の収益と費用を表示しますので、事業や部門ごとの業績管理には不向きです。そこで、事業や部門が服すある会社では、売上・費用を分解した帳票を損益計算書とは別途作成する必要があります。

有名なものではアメーバ経営のような手法が知られていますが、それらに限らず、適切に会社内を区分(事業ごと、部門ごと、あるいは地域ごと)して採算性を計算・把握しておくことは、意思決定上きわめて重要といえます。

部門別・事業別損益の計算の例
  • 経営幹部用:縦軸=部門別と、横軸=固定費・変動費とで分解を行った直接原価方式の損益計算書
  • 一般社員用:経営幹部用のものから人件費をブラックボックス化した損益計算書
  • 営業部用:部門別・事業別の売上と粗利

尚、人件費の扱いは判断が分かれますが、多くの会社ではブラックボックス化して無用なやきもきを起こさせないような配慮をする場合が一般的です。

事業別・部門別採算性を計算するためのテクニック

事業別・部門別採算性の計算は、通常の場合ひどく労力がかかります。というのも、売上・費用に関して一つ一つどの事業に紐づくものかを把握して集計する必要があるからです。ただでさえ多忙な経理部門が、管理会計用の計算でいたずらに工数を取られるのは避けたいところです。

こういったタスクを解決するための案の一つとして、会計ソフトウェアの機能を有効活用する方法(関連記事)が考えられます。多くのソフトウェアに搭載されている「部門」機能を活用する方法です。

他方、違う方向性のセグメント管理方法として、事業自体を分社化する手法がとられる場合もあります。確かに、財務会計(損益計算書)自体が事業別に分かれるので効率的ではありますが、その他の部分、例えば借入金やBSの管理等で弊害が大きいとも言えます。

採算目的での分社化を避けるべき理由と注意点(関連記事)にまとめておりますのでご参考ください。基本路線としては同一会社内で効率よく計算機構を整えていくことが求められます。

当社の支援事例でも、会計ソフト設定×エクセル整備で、ノーコストかつ効果的な管理会計構築から始めることが多い

実際に管理会計を支援させていただくケースでも、やはり会計ソフトにしっかりとフラグ付け(必要に応じて科目変更も)を行い、そのデータをもとにエクセルで必要な損益を計算できるよう整備することが多いです。

この手法の優れているところは、ノーコストでクイックに結果を得られるという点が挙げられます。ほとんどの会社で導入されている一般的な会計ソフトとエクセル(スプレッドシート)を利用しているため、とにかくリーズナブルです。

もちろん非会計データ(代表的なところでは売上数量等)の重要性は無視できませんが、先ずは何より財務会計です。何のデータ集計が必要なのか?集計の結果何が得られるのか?足りないのは何か?を把握するプロセスとしては非常に効果的です。

将来的にはBIツールだとか管理会計ツールの導入を検討するとしても、このようなプロセスを踏むことで社内の思考整理も進むことでしょう。

ケースに学ぶ管理会計①:成長に合わせた帳簿作りが必要となったIT業A社

最後に、ケーススタディ形式で具体的に管理会計のテクニックを解説していきます。尚、いずれも過去の私自身の経験に立脚していますが、ケースモデルには個別に許可をいただいた上、特定に至らないよう適宜工夫して掲載しています。

状況と課題

複数のプロダクトを展開するIT業A社は、プロダクト別収益が把握できず撤退や注力の判断が困難となっていた。

プロダクト名を会計帳簿の摘要に含めるなどある程度コストを振り分けて計上していた。しかし個別に見ていくと複数プロダクト横断の費用があるなど考え方が統一されておらず、更に1つの勘定科目に固定的費用と変動的費用(売上連動費用)が混在しており限界利益は把握困難となっていた。

セグメント別の採算把握のためには帳簿組織の抜本的改定が必要と感じつつも、手の付け所に迷っていた。

問題の所在

会社規模がごく小さいうちは感覚に頼った採算管理も容易ですが、そのままの感覚で業況拡大していくと会計帳簿が収拾不能な状況に陥りがちです。

A社の場合も、会社規模が小さいうちに経理担当をつけ、その後は担当と税理士に任せきりとなっていました。マネジメント陣も事業が小規模の内は財務数値よりもKPIを重視していたため、いざきちんと採算管理が必要になった局面で面食らったことでしょう。

最低限、事業やプロダクト別採算や固定費・変動費の別などは容易に計算できるよう、会計計上の仕組みを早い段階でよく議論しておく必要があったのです。

解決の指針

本記事でも論じてきた通り、セグメント別の採算管理は基本的には財務会計を基礎に構築するのが簡単で説明もしやすい資料となります。

また、IT業は基本的には人件費を中心とする固定費のウェートが大きくなりがちですが、近年のクラウド移行に伴う従量制使用料やライセンスコストなど、変動費的要素も無視できなくなってきています。

このような観点に基づき、勘定科目や部門フラグなどを再構築します。期初などのタイミングで財務会計上の計上指針を変更して、会計帳簿から容易に限界利益やセグメント別利益が計算できる体制となりました。

会社規模がより大きくなればステークホルダーも増え財務会計も動かしにくくなっていきます。A社の場合はいよいよアクセルを踏んでいこうというタイミングで管理会計再構築のプロジェクトに取り組めたことは幸いだったといえるでしょう。

ケースに学ぶ管理会計②:価格競争力低下と工場からの値上げ要請の板挟みになる製造業B社

状況と課題

食品を製造するB社 では、製品1個あたり採算の考え方として、前年の材料費、労務費、工事諸経費(減価償却費や修繕費など)をそれぞれ1個あたりに換算した単価(標準原価単価)を値決めの根拠としていた。

B社の製品は近年は競合他社に押され出荷量は減少していた。営業部としては価格競争が厳しく値下げは必須と主張する。しかし工場としては売上低下したことで固定費を賄うことが難しくなっていることから値下げは困難と考えている。

営業部から見ると、特に製品の固定費単価が実勢を反映しているのかに疑念を持っており(今期の固定費着地によって真の固定費単価は上下し得るため)、値下げ不可という主張は腹落ちしていない。このような背景の下、営業部長はこのままでは部門全体の士気に関わると懸念している。

問題の所在

B社 のように、製品1個あたりの固定費率・変動費率を算定する手法は工業簿記(財務会計)ではお馴染みです。財務会計では固変分解というファジーな区分を重視せず、どちらも同じように扱っていることが特徴です。

しかし前述した通り、この計算方式は管理会計(経営指標)としてはあまり適切ではありません。管理会計においてはあくまでも固定費・変動費の発生メカニズムに着目する必要があり、それを混同するとこのケースのような無用な混乱の種となりがちです。

このケーススタディでは、固定費を1個あたりに換算して値上げするか値下げするかを議論しています。しかし固定費は売上(操業度)が低下しても総額は影響しないので、売上が減り続ける限り製品1個あたり固定費は増加する一方となってしまいます。(この状況をより会計っぽく言えば、操業度差異を分離せず製品単価に直課してしまっている状況と言えます。)

営業部が直感的に感じている当社製品の価格のミスマッチ、価格競争の無さは、このような標準原価計算の誤用に起因していたと言えます。

解決の指針

本記事で論じてきた通り、固定費・変動費を両方含んだ標準原価単価は、指標として使用すれば経営判断を誤る可能性があります。

価格検討はあくまで売上高と変動費の差額(限界利益)が固定費総額を賄えるか?という考え方を採用する必要があります。

この事例について、詳細は関連記事にまとめていますので合わせてご参考ください。

関連記事:標準原価の罠/操業度低下と値上指示の無限ループにハマる中小企業
関連記事で解説する「負のループ」概略図
関連記事で解説する「負のループ」概略図

参考書紹介:管理会計は実践学。ケースで学ぶ重要性は高い。

管理会計はとかく先例を学び如何に自身のケースに落とし込むか?が極めて重要な分野と考えています。

本記事でも私の経験に基づきケーススタディを紹介しましたが、以下の書籍は更に示唆に富んだ事例を紹介しています。私自身も何度も通読していますし、これから管理会計に取り組む方であればきっと気づきを得られると思います。(PR)


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(ちなみに)当社は管理会計に強みを持つコンサルタントです。ぜひご相談/ご依頼ください。

当社では、大小様々な会社様に対して管理会計のコンサルティングを実施しております。

管理会計分野における当社の主な実績
  • 必要指標の整理と、エクセルベースでの管理会計資料の整備(製造業様)
  • プロダクト別採算の精密計算の提供(IT業様)
  • 集計困難な営業員稼働状況をGAS(Google Apps Script)により自動化(サービス業様) 他

管理会計は、企業業績の維持・成長に不可欠な業務です。ご相談やご不安、ご不明点などあれば、↓のボタンから是非お問い合わせ頂ければ幸いです。

お目通しいただきありがとうございました。

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