中小企業のIT化・DXを阻む巨大な壁とは?実務からの経験・DX白書2021と一緒に考える

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お疲れ様です。堺です。

中小企業においてもIT化やDXが強く求められる時代が到来しましたが、中小企業の現場には依然ほとんど浸透していない現実を、コンサルタントの現場で多く見てきました。

今回はそのような問題の背景分析と解決の方向性について、企業再生や業務改善・IT化に取り組んできた自身の経験を踏まえて論じていきます。

IT化・DXに立ちはだかる、日本の中小企業特有の問題:「社内IT人材の圧倒的不足」

情報処理推進機構(IPA)よりDX白書2021が10月に公開されました。その中において「DXへの取組状況(従業員規模別)」の日米別調査結果が、象徴的な結果を見せています。

多くの中小企業が該当する従業員300人規模の区分では、「DXに取り組んでいない」、「わからない」との回答が6割を超えている一方、米国では3割程度に収まっています。

DXへの取組状況(従業員規模別)引用元:IPA DX白書2021 P25
IPA DX白書2021 P25

この事実は、少なくとも米国との対比の中では、何らか日本企業に固有の問題・課題があると考えるべきです。

私自身の実体験も踏まえ整理していきます。

社内IT人材の圧倒的不足

ITシステムの導入成功や、業務・業界を変革するDXの実現には、自社業務の実務に精通したIT技術者が不可欠です。

自社の強み・弱み、矛盾がどこに潜んでいるかを実務をもって把握し、その課題を解決していくのが本来のIT担当者の役割ですが、日本の中小企業では、この「社内IT人材」というパーツが欠けているケースが殆どです。

私自身、コンサルタントをしている頃、日本の中小企業の事務所に多く訪問しました。その中で、IT担当者が配置されているケースは、兼任を含めてもかなり稀なことでした。

それら多くの会社では、ITを利用していないわけではなく、たいていの場合何らかの業務システムを取り入れています。しかしながらそれらは十中八九は外部(多くは地元のITベンダー)に制作を依頼したソフトウェアであり、使いにくさやバグと闘いながら日々の業務をこなしているのです。

外部のベンダーは、言われた通りのソフトを作ることはできても、業務の中身まで包括的に把握し、課題解決を目指すことはほとんど行いません。それは生半可な関与度合いでは達成不可能だからであり、逆にそれを実現しうるとすればやはり外部ではなく内部にいるIT人材の方が断然有力なのです。

では、なぜそのような社内IT人材が不足しているのでしょうか?

日本のIT人材は、ベンダー企業に偏在している

ご存じの通り日本の雇用制度は、企業に安易な解雇を許しておらず、企業にとって正規雇用は大きなリスクが伴います。

そのような法制下では日本企業はジェネラリストを重用せざるを得ず、特にリソースが十分ではない中小企業においてIT人材のようなプロフェッショナルの雇用は危険視される風土を培ってきました。

こういった環境を反映してか、日本においてはSES企業(システム・エンジニアリング・サービス、IT全般の外注業務を受ける会社)が数多く成長しており、IT人材の雇用の受け皿となっています。

かかるSES企業が「顧客に正社員を抱えさせないこと」だけをコアコンピタンシとしたとしてもビジネスを成立させている背景には、日本の雇用制度が長年熟成してきたジェネラリスト重視の土壌が大きくかかわっていると言えます。

企業実務とIT人材の分断がIT実装の妨げに

このように、各産業の企業実務とIT人材が強く分断された状況が現在の日本の中小企業がおかれた環境であり、冒頭で上げたように米国などに後れを取る遠因になっているものと思われます。

ITの登場からはや半世紀、その役割は大きく進歩しており、日本の中小企業は旧時代のIT観に取り残されてしまっています。いよいよIT人材との付き合い方を見直す時が来ていると言えるでしょう。

日本の雇用制度とIT化に横たわるもう一つの問題:人手削減が業績改善に繋がらないという事実

ITで人手間を削減したとしても、柔軟な配置転換が可能な大手企業ならいざ知らず、中小企業においてはITで手をあけた人材を別で活用することが困難であることがほとんどです。(当然ながら即解雇するなどは不可能です)

企業から見れば、「効率化はできるけど人が余っちゃうよね」という結論に陥りやすく、それであればわざわざ手間とコストをかけたIT化になど取り組まないのです。

このように、日本でのRPAや業務自動化、ITでの変革がいまいち盛り上がらない背景には、雇用調整の難しさから来る「効率化提案の刺さらなさ」が大きな要因となっていると思われます。

社内IT人材に加え、もう一つ重要なパーツ:「社長のGOサイン」

こちらは言うまでもないですが、結局のところ中小企業は企業トップ(社長)の鶴の一声が非常に重要です。

社内IT人材の配置と社長のGOサインが組み合わさったときにはじめてDXの芽が出るものです。

もし現在社内SEなどの業務をしており、社内や業界を変革する自信のある方がいらっしゃれば、是非トップの心を動かすようなプレゼンを行い、革新的なプロダクトを生み出してほしいものと祈っています(題材着目のコツは次のセクションで説明します)。

また、現在社長や役員を務めている方であれば、持続可能な経営に向けて今こそIT人材の積極的登用を検討するべきです。

上記で引用したDX白書2021においては、役員の中でITに見識がある割合は、米国に比べ大きく水をあけられています。これもまたジェネラリスト重視の日本企業文化が生んできた弊害といえますが、人口減少が続く日本においては、そうもいっていられない時代が目前まで迫っています

ITの見識がある役員の割合 引用元:IPA DX白書2021 P31
IPA DX白書2021 P31
【社内PR】チーム・ウォーク

矛盾あるところにDXの可能性がある

では社長やIT担当役員、社内SEは、社内を見渡した時、どこに着目してDXの芽を見つけるのが良いでしょうか?

私の一つの回答として、「矛盾の発見」がポイントと考えています。

例えば私と事業者様の共同で進めている「おしぼりAIプロジェクト」では、「レンタルするおしぼりが超重要資産にもかかわらず、所在把握が困難」という矛盾に着想を得たプロダクトです。

関連記事:【AI開発・活用事例】おしぼりAIが描く業務改革/開発実務や経緯を紹介

別の言い方を言えば、歯がゆさ、むずがゆさとでもいうのでしょうか?

このような業務上の歪みをITという処方箋によって快方するのであれば、きっと自社のみならず業界全体の改革へとつながるはずです。

社長に聞いてほしい。IT、DX、AI技術などは、中小企業にも決して遠い世界のものではない、ということ。

特に中小企業のトップ・社長に強く意識していただきたい点です。

これらの技術は標準化、パッケージ化、フレームワーク化が急速に進んでおり、中小企業でも取り扱いが十分可能ほどに民主化がなされています。

食わず嫌い、遠い世界のものと無視せず、これを機により自分事として向き合っていただければ幸いです。

私の過去のプレゼン資料より。新たな価値は、矛盾に対して経営者がまだ知らない技術と出会うことで生まれると考えます。
私の過去のプレゼン資料より

大企業向け事例や分析レポートは、中小企業が相手ではピンボケする。実務家に求められるものとは。

「アジャイル」、「社内協業」、「サイバーリスク」などの言葉が躍る、ある程度基盤が整った会社向け事例や分析と見比べると、中小企業のITバックグラウンドは全く「それ以前の段階」と思われる個所が多く見受けられます。

中小企業の現場では、そもそもITが分かる人が社内にいない、パソコンが人数分ない、社内の半分以上はパソコンが使ったことがないなど、想像以上の状況が存在しています。

人材不足や収益事業創出の切迫度は中小企業の方が上のはずです。我々IT実務家としても、より実態に即して日本全体の新IT時代へのシフトを推進していくべきでしょう。

結び:価値あるITプロジェクトの創出が、人口減少の日本を救うはず

DXが流行語となり久しいですが、一時のブームとあしらわず、今後の人手不足に対して真剣に向き合う契機とするべきです。

日本企業には旧来から培ってきた文化があり、それが奏功している部分も多数あるでしょう。

しかしながら、ことITへの向き合い方に関しては大きな方向転換を迫られており、それは中小企業といえども例外ではありません。

是非、価値あるプロジェクト・プロダクトを多数の方が産出し、社会的貢献を果たされることを祈っています。今回もお目通しいただき有難うございました。

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